日々の喜怒哀楽を綴ります。

唐版『風の又三郎』

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 BunkamuraシアターコクーンでBunkamura30周年記念 シアターコクーン・オンレパートリー2019「唐版 風の又三郎」(作=唐十郎、演出=金守珍、美術=宇野亞喜良)

 客席は主演の二人、人気俳優の窪田正孝と宝塚出身の柚希礼音(ゆずき・れおん)のファンと思われる女性客で満席。3月まで1カ月公演なのにすでにチケット完売という話も聞く。
 普段、彼女たちが見る芝居とはまったくの異質の舞台に違いないが、おそらく客席を埋める窪田ファン、宝塚ファンにとって忘れられない新鮮で清冽な舞台になったと確信した。彼女たちが「アングラ」の新しいファンになるに違いない。

 初演は1974年。状況劇場から新宿梁山泊へと受け継がれた唐十郎のDNAは45年経って、アングラの毒を内包しながらもまったく新しい「エンターテインメント」として止揚したのだ。

 精神病院を抜け出してきた青年・織部(窪田)は宮沢賢治作品の愛読者。宇都宮から流れてきたホステス・エリカ(柚希)と出会い、彼女に風の又三郎を幻視する。
 エリカは自衛隊の練習機を乗り逃げし行方不明となったた恋人・高田三郎三曹(丸山智己)の面影を求めて彷徨っている。
 そんな彼女を執拗に追う「夜の男」(北村有希起哉)。

 帝国探偵社を舞台に、教授(風間杜夫)と淫腐(金守珍)、珍腐(石井愃一)、乱腐(六平直政)の三怪人の暗躍。 物語の狂言回し役でもある宮沢賢治の山崎銀之丞。そして、二丁カミソリの桃子(江口のりこ)と梅子(えびねひさよ)、死の少年(大鶴美仁音)。

コロスは新宿梁山泊とゆかりの俳優たち。

 このキャストの豪華さ。

 ギリシャ神話の「オルフェ」やシェイクスピアの「ヴェニスの商人」、そして実際にあった自衛隊練習機乗り逃げ事件などを織り込みながら展開する、めくるめく幻想の唐ワールド。

 まず窪田の演技が素晴らしい。ガラスのようにもろく儚く、正気と狂気を行き来する織部。その純朴と繊細な心象の存在感は6年ぶりの舞台とは思えない。声もいい。その身体性は舞台向きではないか。

 そして、冒頭、ガラスのマントを羽織って登場、風に舞うスペクタクルで度肝を抜く柚希の凛とした立ち姿。少年から艶めかしいエリカへの変身。深紅のドレスでの情熱的な歌とダンス。その華やかさに陶然とする。

 夜の男の北村の不穏な殺意をはらむ不気味な佇まい、風間と山崎は同時代ながらもアングラと一線を画したつかこうへい門下。初めての唐世界ながら喜々としてその世界に溶け込み楽しんでいた。

 石井は蜷川、金守珍演出の常連。呼吸もピッタリ。役者として舞台を締める金守珍の変幻自在な演技。そしてまるで水を得た魚のようにアングラ役者っぷりを発揮する六平。コクーンということでまだ遠慮があるように見受けられるが、六平の本領発揮はまだこれから。

 二丁カミソリのスケバン姿も鮮やかな江口のりこのカッコよさ。タッパのある丸山の立ち姿の色気。梅子に抜擢されたえびねひさよの愛らしさ。唐の愛娘、美仁音の凄み。

……そしてなにより梁山泊アンサンブルの「どっどど隊」のマントを翻すダンス・アクションの華麗さ。
 コロスほかのキャストは以下の通り。
広島光、申大樹、林勇輔、染野弘孝、小林由尚、加藤亮介、三浦伸子、渡会久美子、傳田圭菜、佐藤梟、日和佐美香、清水美帆子、本山由乃、寺田結美。

 宇野亞紀良の美術も特筆もの。巨大なカタツムリ、方向指示の指先、「ん」のオブジェは寺山修司の映画、演劇で多用されたもの。
 唐十郎が兄と慕った寺山修司。その二人の魂が舞台で交差する。そのことをもってしても自然と目頭が熱くなる舞台だった。

 「アングラはわからない、難しい、理解できない」とは良くいわれることだが、「わからないこと」を楽しむのも芝居。ましてこの舞台はビジュアル、仕掛けも楽しめるスペクタクルな舞台。役者を見ているだけでも胸が躍る。
 ラストシーンのカタルシスはテントを超えたか。

 3幕3時間だが、歌やダンスも織り込まれるスピーディーな演出でアッという間。まさにアングラは現代歌舞伎。
3月3日まで。

(『日刊現代』山田勝仁記者)

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