日々の喜怒哀楽を綴ります。

『ワレサ~連帯の男』

ワイダ監督・88歳の最新作『ワレサ~連帯の男』の2時間に引き込まれっぱなしだった。単なる「伝記」ではない。東欧の民主化~ベルリンの壁崩壊~東西冷戦の終焉~ソビエト崩壊(=社会主義の敗北)という現代史の、ポーランドにおける総括の話である。ワレサを演じたヴィエンツケヴィッチ、妻役のグロホフスカ、その他全ての役者の演技が秀逸だ。そして、過去の回想シーンが白黒画面になり「これは実写か?」と緊張感と共に見紛わせる手法は、スパイク・リー『マルコムX』からのパクリであろうが、実に効果的である。まくし立てるようなポーランド語のうねりと響きはロシア語のそれと全く違って、むしろスペイン語のような趣がある。キューバ革命50周年記念のお手盛り映画(=愚作)『チェ』とは似ても似つかぬ本作品だが「言葉の矢」に関しては共通点があることも発見した。日本映画でこの手法が顕在している作品を、管見は知らない。バックに流れるポーランド語のロックにも、存分に気分が掻き立てられた。そう、"ワレサの時代"とは、社会主義革命の実験が大音響と共に崩壊して行く中で、民衆の言葉と抵抗の音声が騒然と矢継ぎ早に発せられた時代だったのだ。
圧巻は「三つ闘い」の相乗である。凄まじい弾圧の中で、自主労組の結成とゼネストを通じて自由投票(国政)での勝利をかちとるまでの「連帯」の闘争。毎日赤ん坊のおむつを替え、女房に詫びを入れ、数度の解雇にもめげず「電気工」としてノン・エリートの生き様を捨てないワレサ。そして、極貧のなかで六人の子どもを育てながら、ノーベル平和賞の授賞式に出席できない夫の代参を務め、帰国時に陰部の中まで身体検査されるという屈辱にも堪えた妻・ダヌタ。彼女の科白「私は恐れない」に、私は嗚咽しそうになった。
この映画を選択・紹介した岩波ホールの慧眼に、今回も感謝したい。ポーランド統一労働者党(共産党)は、現在の自民党である。日本にはワレサと「連帯」が存在しないからノウノウとのさばっているだけなのだ。この国と社会の閉塞状況に本作品が投じる一光は、あまりにも眩しい。