日々の喜怒哀楽を綴ります。

下村敦史『闇に香る嘘』

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下村敦史『闇に香る嘘』を一気に読んだ。物語が頭の中を何度も何度も、何事かに逡巡するかのように回転し、その展開を反芻した。本作品の下敷きには「中国残留孤児問題」がある。そして「全盲」が作品全体の終始一貫を覆う。下村敦史が描いた障害者像は『白の闇』(ジョゼ・サラマーゴ/1998年ノーベル文学賞)から抽出され、かつ綿密に洗練された印象を受けた。「常闇」に生きざるを得なくなった主人公の<言動・思考・苦悩・葛藤>の逐一が読者に憑依してきて、そしてそれが「謎解き」の因果に繋がっていくのだ。下村自身が視覚障害者か?と訝ったほどで、その取材力は<常軌を逸する>との過言を以て絶賛する以外ない。
昔、白土三平『カムイ伝』の惹句に「ストーリーは小説を越え、ビジュアルは映画を越えた」という秀逸があったが、それに擬えて、『闇に香る嘘』の「構想力は『三たびの海峡』(帚木蓬生)を越え、歴史性は『エトロフ発緊急電』(佐々木 譲)を凌ぎ、説得力は『テロリストのパラソル』(伊藤伊織)に勝とも劣らず、結末の意外性は『砂の器』(松本清張)を遥かに凌駕し、そして、筆力は『李歐』(高村薫)に肉薄している」と記しておこう。